
今回は烏口上腕靭帯を組織学的、免疫組織学的に研究した結果を報告している文献を紹介します。
『烏口上腕靭帯の組織学的、免疫組織学的研究』
これまで肩関節の外旋制限の原因は、烏口上腕靭帯が主因となって引き起こしているといった内容の記事を書いてきました。
その記事の中でも、烏口上腕靭帯の特徴について解説してきましたが、簡単に説明したにとどまる内容でした。
そこで今回はより詳細に烏口上腕靭帯について知識を深めることができる文献として、烏口上腕靭帯の組織学的、免疫組織学的研究の紹介をしようと考えました。
この文献によって、烏口上腕靭帯に特徴的な、可動域制限と強い痛みの理由を明らかにすることができます。
烏口上腕靭帯といえば
烏口上腕靭帯については、これまで肩関節制限因子の1つとして紹介し、その都度制限因子として主因となり得るものだと解説してきました。
肩関節周囲炎や「いわゆる五十肩」の発症や過程で、烏口上腕靭帯や腱板疎部の関わりが大きく、肩関節拘縮においても、烏口上腕靭帯や腱板疎部の癒着や瘢痕化が主因となることが報告されています。
そのため、烏口上腕靭帯や腱板疎部には他の組織の肩関節構成要素にはない解剖学的な特徴が見られるのではないかと考えられます。
本文献の研究するきっかけにはこのような背景があり、解剖学的特異性の存在を確認するために研究が行われています。
烏口上腕靭帯の組織構成
烏口上腕靭帯は伸張する靭帯として知られていますが、靭帯が伸張するということには特異性を感じます。
烏口上腕靭帯の他の靭帯とは異なる役割については、これまでの記事で解説してきましたので、なぜ烏口上腕靭帯が伸張することが可能なのかとに注目していきたいと思います。
烏口上腕靭帯は非常に柔らかく伸縮性に富んでいる靭帯です。本文献によると、疎性結合組織が主体で、辺縁には滑膜組織が存在していることが確認できると報告しています。
また、腱板疎部周辺の関節包と烏口上腕靭帯とで、免疫組織染色を行っており、伸張性の違いがよくわかります。
関節包では、Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンが均等に分布されていたのに対して、烏口上腕靭帯ではⅢ型コラーゲンが優位に分布していたのです。
烏口上腕靭帯は疎性結合組織の占める割合が多いため、Ⅲ型コラーゲンが多く存在しているのかもしれません。
このことから、烏口上腕靭帯は非常に伸縮性に富み、柔軟な靭帯であることがわかります。
Check
疎性結合組織とは、膠原線維の量が比較的少なく、不規則な配列をしている固有結合組織の1つです。
ちなみに腱や靭帯では、膠原線維など線維性成分がびっしりと平行に配列されています。(密性結合組織や線維性結合組織)多くは皮下組織、筋組織内、腸管膜などの結合組織や、血管や神経の周囲などでみられます。
膠原線維量が少なく、弾性線維や細網線維などによって構成されています。ただ線維よりも細胞成分の方が多いです。疎性結合組織の主な機能は、組織同士を緩く結合することや全身における脈管・神経の誘導役、毛細血管の通路など柔軟性を生かした活躍をしています。
膠原線維は、結合組織の細胞間、つまり細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分です。 膠原線維は、コラーゲン( [英語] : collagen、 [ドイツ語] : Kollagen)と呼ばれる機会の方が多いかもしれません。膠原線維はタンパク質であり、真皮、腱、靱帯などはこの膠原線維が集まって構成されています。このことから、ヒトにとって膠原線維は人体構造を保つためになくてはならない線維であることがわかります。
体内の膠原線維の総量は、全タンパク質のほぼ30%を占めています。
烏口上腕靭帯に痛みが起こる?
肩関節拘縮ではほとんどの場合、外旋制限が起こってきますが、それと共に痛みを伴うことがほとんどです。
外旋制限では痛みが出やすく、しかも強い痛みであることが特徴の1つとです。
ですが、外旋によってなぜ痛みが起こるのでしょうか?インピンジメントを起こすわけでもありませんし、筋肉の伸張痛にしては動作の早期に痛みが起こるため、痛みの原因としては考えづらいです。
そこで、考えられるのが可動域制限の主因となり得る烏口上腕靭帯です。
烏口上腕靭帯はほとんどが疎性結合組織によって構成されています。
疎性結合組織というのは、脈管系・神経系を誘導する働きや栄養・ホルモンなどを運ぶための毛細血管の通路としての働きを持っています。
つまり、烏口上腕靭帯も肩関節前方の状態を把握するための神経や、栄養を運ぶための毛細血管が通っている可能性が非常に高いです。
本文献に毛細血管についての報告はありませんでしたが、神経においての報告はされています。
烏口上腕靭帯の末梢神経線維の分布状況を調べた結果、主に中心部のコラーゲン線維が疎になっている部位にニューロフィラメント陽性線維とミエリンタンパクが存在することを発見しています。これは、烏口上腕靭帯に有髄神経線維が存在していることを示し、つまりは烏口上腕靭帯には痛みを感じる神経線維が存在していることを意味します。
また、烏口上腕靭帯の付着部は烏口突起ですが、烏口突起下面の骨膜に移行する形態をとっていると報告しています。骨膜といえば、体の中で最も痛みを強く感じる部分と言われています。
骨には侵害受容神経が分布しておらず、骨の損傷による痛みは骨膜で起こっているものなので、骨折では強烈な痛みが伴うこともうなずけます。
つまり、烏口上腕靭帯によるなんらかの刺激が骨膜に影響する、もしくは烏口上腕靭帯によるストレスが骨膜にもストレスを与えて、痛みを誘発していることが考えられます。
本文献で、「一度瘢痕拘縮を起こすと疼痛に対する閾値が低い靭帯と思われた。」という記載がされていますが、上記のことを指しているものと考えています。
まとめ
烏口上腕靭帯は疎性結合組織であり、Ⅲ型コラーゲンが優位に構成している非常に柔軟な靭帯です。
そのため、炎症などによって瘢痕化することで顕著な可動域制限を引き起こす可能性が考えられます。
また痛みに関しても、烏口突起付着部では骨膜にそのまま移行している状態であることや、靭帯内に有髄線維が散在していることから、痛みに対して敏感であり、強い痛みを引き起こす靭帯として捉えることができます。
烏口上腕靭帯には、可動域制限・痛みに関する特異性があることがわかり、より外旋可動域制限と強い痛みに烏口上腕靭帯が大きく関わっている可能性を感じることができます。
これらの特徴を踏まえて、いざ烏口上腕靭帯といかに関わっていくのかを考えていく必要があるでしょう。今後このサイトも、この文献を参考に評価や治療を考えていきたいと思います。
ここで紹介したのは、文献の一部分であり、対象や方法について、結果については紹介していませんが、非常に役立つ報告がされています。
ぜひ一度読んでみてください。
烏口上腕靭帯については以下の書籍にも記載されていますので、ぜひ評価・治療の参考にしてみてはいかがでしょうか。