酸欠と痛みの関係について
qimono / Pixabay
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投稿日:平成30年9月19日

この記事で分かること

局所酸欠が痛みと関わっていること
ATPを生成する場所と方法
細胞内外でのイオン濃度

ヒトが生活するためには酸素が必要です。もし酸素量が少なくなると酸欠が起きてしまいます。一見内科・循環器などの領域に感じますが、整形外科・運動器領域でも酸欠は留意すべきです。整形外科領域では局所に起こる酸欠と痛みに関わりがあるようなのです。

この記事では『局所の酸欠が起こることによって痛みが生じるメカニズム』について解説していきます。

痛みの発生機序は多岐にわたって、療法士にとって非常に関わりが深いことです。しかし、痛みを正確に理解することは難しく、そのことで頭を抱えることも多いです。今回はそういった臨床上でよく起こる痛みの発生機序の1つとして考えられる内容でもあります。

なぜ酸欠になると痛みが?

まず今回のテーマである「酸欠と痛みの関係」について重要なことは、細胞外にカリウムイオン(K+)を取り込めないことで、細胞内のK+濃度が上昇してしまうからということです。このことは異常な活動電位が発生してしまうことを意味しています。では、K+濃度が細胞内で多くなってしまう理由とその後の変化を踏まえて見ていきましょう。

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イオン濃度の変化で何が起こるのか

そもそも人間の細胞内外には様々なイオンが分布していて、それぞれのイオンは細胞内外で濃度に違いがあります。細胞外ではナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)の濃度が高く、細胞内にはカリウムイオン(K+)やタンパク質陰イオンの濃度が高くなっています。このイオン分布のおかげで細胞内は-70mVの静止膜電位を維持することができます。

このことは活動電位を知る上で重要です。静止膜電位に神経細胞の興奮による刺激が入ると、ナトリウムチャンネルが開かれ、Na+が細胞内へ急速に移動し、細胞内の「Na+が増加します。すると負電荷だった電位が減少して、正電荷に近付こうとし活動電位が発生します。

このようにヒトが生きていくためには、細胞レベルでの電位変化が必要不可欠となっています。そして、ここでもう1つ重要なことがあります。それはATPの存在です。静止膜電位を保つためや、Na-Kイオンポンプなどの能動輸送を行うためにはATPが必要になりますが、もしも不足してしまった場合にどのようなことが起こるのでしょうか?

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ATPはどうやって作られる?

ATPが作られる方法には大きく分けて3種類あります。この記事ではそこまで詳しく説明しませんが、後日記事をアップさせていただきます。ATPが作られる過程として重要な反応には、①解糖系②クエン酸回路③電子伝達系(ミトコンドリア)があります。

解糖系とは

解糖系は、グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解していくことで、グルコースをATPへと変換していく代謝過程のことです。これらの反応は細胞内の細胞質基質で起こっていて、すべての生物で解糖系によるATPの反応が起こっているようです。

この解糖系による反応は嫌気的状態(無酸素の状態)でも起こすことのできる代謝反応で、筋力トレーニングなどの無酸素運動に使われる代謝としてよく知られています。

 

この解糖系による代謝によって、ピルビン酸まで分解が進み、ここからはミトコンドリアによるクエン酸回路に入ることで、ATPをさらに多く作っていきます。

ちなみに疲労物質として一時期注目されていた乳酸は、無酸素状態で代謝を行うことで、ピルビン酸から変化します。そのため、有酸素運動であれば乳酸は生まれることがなく、クエン酸回路に入っていきます。

クエン酸回路とは

クエン酸回路は、TCA回路やTCAサイクル、はたまたクレブス回路など様々な呼び名を持っています。クエン酸回路?と思った方もどれかは聞いたことがあるはずです。好気的な代謝、つまり有酸素運動ではこの代謝が最も重要な反応であり、酸素により生存できている生物には見られる反応と言えるほど重要です。

解糖系によって得たピルビン酸はミトコンドリアによってアセチルCoAに変換され、ミトコンドリアの内膜に囲まれた基質のクエン酸回路によって、NADHなどに分解されます。このクエン酸回路では直接ATPを作る反応があるわけではなく、次の電子伝達系に必要なNADHを生成するために重要な反応を起こしてくれます。

電子伝達系とは

電子伝達系ではATPを大量に生産することができます。つまり電子伝達系は、好気的代謝における最終的な反応で最重要の代謝ということができます。電子伝達系では、クエン酸回路によって生成されたNADHによって始まります。かなり難しい話になってしまうので掻い摘んでいきます。

クエン酸回路によってNADHFADH2という形で生成され、ミトコンドリア内膜でH+をタンパク質複合体に次々汲み出されていきます。この電子の受け渡しによってミトコンドリア内の基質と内膜と外膜との間の膜感部分とで、H+の水素勾配と電位差が生じます。すると、能動輸送によってH+を基質に戻すことが必要になって、その時の過程でATPが作られるのです。詳しい内容はまた後日ということで・・・。

ちなみに、1つのグルコースでは、解糖系によって2つのATPを作ることができ、さらに電子伝達系に入ることで36ATPを作ることができます。電子伝達系がいかにすごい仕組みで、いかに人間にとって重要な働きをしてくれるかということがわかりますね。

酸欠とATP産生との関係

ヒトが活動するためには、活動電位によって様々な器官を動かす必要があります。そのためにはATPが必要になります。しかし、ATPの生産性が低下したらどうなるでしょうか?つまり酸欠の状態になったらどうなるでしょうか?

運動器で言う酸欠の状態は、長時間同じ姿勢を保った事により血管が圧迫されている状態や骨折などの影響で血管自体に問題が起こっている場合、損傷や痛みによって交感神経による血管収縮などにより起こると考えられます。

そうなるとATPを産生しようとしても、その過程で必要となるO+が足りなくなってしまうため、多くのATPを作り出せません。特に電子伝達系での生産性が落ちてしまいます。実は細胞膜でのナトリウムカリウムポンプをはじめ、多くの輸送にはATPが必要となので、不足してしまうと分子間の移動に支障が起こります。特にK+には注目で、酸欠と痛みのキーポイントです。

 

通常細胞内のK+は、濃度勾配で細胞外の濃度が低い場合には、漏洩チャネルによってATPを必要とせず細胞外へ移動することが出来ます。しかし細胞内の濃度が低くなった場合には、ナトリウムカリウムポンプによって細胞内へと移動しなければいけません。ところがATP不足によってナトリウムカリウムポンプは使えないので、K+は細胞内にはいることが出来なくなります。

すると細胞内のカリウム濃度が高くなってしまっても、濃度勾配による細胞外への漏洩が出来なくなってしまい、細胞内のK+濃度がどんどん高まり、細胞内の電位が上昇し脱分極が起こり、活動電位が生じてしまいます。

痛みの原因が発生する

このように意図しない活動電位が生じること・局所で酸欠の状態になることで、アシドーシスの状態に陥ります。すると血漿プレカリクレインが活性化し、その作用によってブラジキニンを産生します。

ブラジキニンには、血管拡張作用やプロスタグランジン産生促進作用によって更なる血管拡張作用があるため、血流改善による酸素の取り込みでアシドーシス改善を狙った動きが起こります。しかし、ブラジキニンは疼痛誘発物質でもあるため、血流改善しようとする動きとともに疼痛が引き起こされてしまうのです。

おわりに

今回は運動器領域で見られる、局所の酸欠状態によって痛みが起こるメカニズムについて解説しました。この記事を読んで細胞レベルでの話になるとは思わなかったかもしれませんが、非常に重要な記事になったと感じています。

私達の体を動かすためのエネルギーになってくれているATPですが、不足することで痛みとして影響を起こしてしまうことがわかりました。今までは、循環障害が起こるとスパズムが起こるなどは多くの文献で読む機会がありました、詳細なメカニズムまでは知ることができませんでした。しかし、今回の記事ではその点についても理解できる内容だったのではないでしょうか?

今回のことで、痛みでもなんでも知った気になっていて、実際細胞レベルでの説明ができないことが多いことを感じました。そして、詳細メカニズムを知ることで、評価と治療の考え方も見直す必要が出てきたものもありました。

今後はこの知識を基にどのように評価を行う、治療を行うことが最も有効なのかを探っていきたいです。少し難しく、分かりづらいないようだったかもしれませんが、きっと役立つ知識になると思います。今後もこういった深く突っ込んだ内容の執筆にも挑戦していきたいです。

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