関節包と動的支持機構
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今回紹介する文献は、動的支持機構の実態とメカニズムを知ることができる文献です。
『肩関節における動的支持機構についての考察 —後方ストレスに対する棘下筋の作用と関節包の神経染色より—』

関節包と動的支持機構

肩甲上腕関節の周囲に存在する組織として、関節包や腱板が知られています。
関節包は脱臼しないように安定させる、腱板は骨頭の求心位を獲得する、といったことは多くの方に知られている肩関節の特徴です。

ですが、この文献では、関節包と腱板のより深い関係を知ることができます。

肩関節を安定させる支持組織の存在

肩関節は構造上、非常に不安定な関節として知られ、見るからにも不安定さを感じることができます。
一方で、非常に大きな可動性を持つ関節として知られ、上肢動作の核として日常生活で活躍する関節という特徴があります。
しかし、不安定な状態で、大きな可動性を獲得することができるという点には矛盾を感じてしまいます。

しかし、肩関節はその矛盾点を克服しています。
それを可能にしているのが、非常に優れた安定化機構である安定支持組織の存在です。

肩関節を安定させる支持組織には2種類あります。
静的支持組織動的支持組織です。

静的支持組織は、主に関節包や関節上腕靭帯、烏口上腕靭帯によって組織されている支持機構です。
関節包や靭帯の硬い伸張性によって得られる「ある一定のところまでは可動できるが、それ以上は制動する」によって、安静時・動作時の両面で安定性を与え、上腕骨頭の可動と脱臼の防止を可能にしています。

動的支持組織は、肩関節腱板(Rotator cuff)によって組織された支持機構です。
動的支持組織では、主に動作時における上腕骨頭の求心を保持して、骨頭の逸脱なく理想とする骨頭位置で動作できるように働いています。
この働きによってインピンジメントを回避した動作が行えるようになります。

この文献は、棘下筋に着目して、どのようなメカニズムで動的な支持を行なっているのかを研究しています。

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動作からわかる支持組織の役割

では、動作中にどのようにして安定性を獲得しているのでしょうか。
例えば挙上動作で考えると、動作初期にから棘上筋・棘下筋・肩甲下筋が収縮することで、骨頭の求心位を獲得し、骨頭の上昇を防いでいます。
これによって、三角筋が強い収縮を行なっても、インピンジメントを起こすことなく上腕骨の回転運動を起こすことを可能にします。
いわゆるフォースカップルというものです。

肩のフォースカップル

筋骨格系のキネシオロジーより引用 p138

では、棘下筋に注目してみましょう。
挙上動作において三角筋の収縮により、上腕骨長軸を後方へ引く働きが常に起こっています。

そこに棘下筋が働くことで、骨頭の後方移動を防ぎ、さらにはその合力を肩甲骨関節窩に向けることを可能にしています。
このことで骨頭の後方脱臼を起こすことなく、求心位を獲得することを実現します。

腱板 求心位 合力

肩関節における動的支持機構についての考察 より引用

しかし、ここで疑問も生まれます。
棘下筋は何をきっかけとして収縮を起こしているのかという点です。

骨頭の圧力を感じることによって、とも考えられますが、筋肉そのように感じ取るセンサーがあるでしょうか。
筋肉を反射的に収縮させるメカニズムとしては、腱反射が有名ですが、「急に引き伸ばされると」とよく解説されている点が、この安定化機構に当てはまるか疑問にさせます。

また、筋肉本来に収縮のメカニズムがあるのであれば、習慣的に肩関節脱臼を起こす症例の場合、なぜ腱板の動的支持機能が発揮しないか?という点にも疑問を感じます。

そういった疑問を解決してくれるのが今回の文献です。
動的支持機構のメカニズムはどうなっているのか、この文献を基に解説しましょう。

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棘下筋は後方ストレスに対して関わるか?

本文献では、背臥位にて肩関節屈曲90°(地面と垂直)で5kg刻みの20kgまでの重りを持った際、それぞれの重りストレスによって、棘下筋がどのように反応するかを、活動電位を用いることで研究しています。

背臥位での90°と屈曲ということは、骨頭が後方へ逸脱する力が働いていることになり、後方関節包が支えることになります。この状態は、静的状態であるため、動的支持組織の働きは弱いと考えられます。
そこで重りを加えることによって、動作中にかかる後方ストレスの状態に近づけ、動的支持組織の働きを促し、また、重りを増やしていくことで、後方ストレスをより強め、脱臼を起こす負荷に近づけることを想定して行っています。

このことによって、後方へのストレスに棘下筋はどのような反応を見せるのか、と負荷が大きくなることで棘下筋の反応に変化は起こるのか、という2点について調べることができます。

結果、棘下筋の活動電位の波形はストレスをかけていない状態であれば、反応を見せることはありませんでしたが、重りを追加しストレスを大きくするにつれて、波形が増幅していったことを報告しています。

このことで、動作時などの大きな後方ストレスに対しては、棘下筋が収縮することで、動的な安定性を与えていることがわかります。
また、後方ストレスの増加に伴って活動量が上がっていることから、ストレスの大きさによって、棘下筋の収縮力を調整し、安定させることが可能ということもわかります。

棘下筋は関節内ブロックの影響を受けるか?

次に、関節内ブロックによって棘下筋の活動電位は変化するかを検討しています。
もしも、関節内ブロックによって、変化しないのであれば伸張反射など棘下筋自体の反応によって安定性を高めていることを意味しますが、活動電位に変化が起こるのであれば、棘下筋の活動は関節包内の影響によることを意味します。

結果、関節内ブロックによって、棘下筋の活動電位は明らかな低下を認めることになり、動的支持機構と直接影響がないように思われる関節包内に、棘下筋の活動電位を変化させるメカニズムが存在する可能性が出てきました。
そのため、本文献では関節包に対して、神経染色を行うことで神経による影響を検討しています。
その結果、関節包内には多数の神経終末が観察され、特殊な形態を示すRuffini型受容器やPacini型受容器などのmechanoreceptorが観察され、線維用構造の自由終末も確認されています。

棘下筋の出力を調整メカニズム

これらのことから、後方ストレスによる棘下筋の活動電位の高まりは、関節包内に多数存在するmechanoreceptorによる影響ということがわかります。

ストレスが働き骨頭による後方ストレスが起こると後方の関節包が伸張されることになり、そこに存在するmechanoreceptorが反応します。
mechanoreceptorが反応すると反射的に求心性神経線維にインパルスを送り、そのインパルスは中枢神経を介し運動神経に遠心性インパルスを送ります。
遠心性インパルスは棘下筋に達し、収縮を行うことによって、骨頭を求心位に保つ働きが生まれる、といったメカニズムを推察することができます。

つまり、後方ストレスによって、関節包が骨頭が後方に圧迫されてきたので、脱臼するかもしれない!という情報を脳に伝え、脳から脱臼しないように後方の筋肉は収縮しなさいというフィードバックが返ってくるシステムになっているのです。

このシステムで脱臼症例に対する疑問にも納得がいきます。
習慣的に脱臼する症例の関節包は非常に緩い状態になっています。そのため、動作によって関節包は伸張することがなく、関節包内のmechanoreceptorは反応しないため、動的支持組織が働くことなく脱臼してしまうのです。

まとめ

今回紹介した文献から、棘下筋に着目することで動的支持組織が機能するメカニズムを理解することができました。

動的支持組織は関節包内に多数存在するmechanoreceptorの影響を受けることで、その機能を発揮します。
ですが、多くの方は関節包の役割を、脱臼しないように制動する組織として理解し、腱板筋は動的支持として働くいう漠然としたもので理解し、それぞれを別々のものとして扱っています。

しかし、静的支持組織と動的支持組織は密接に関わり合い、関節包なくして棘下筋の収縮は起らないという事実が存在するのです。
外旋動作としては単独で動作を行える棘下筋は、安定させる作用になると関節包が必要になるのです。

本文献では棘下筋に着目していますが、実際には棘下筋だけではなく、それぞれの制動に対応する関節包と筋肉がペアとなって、支持組織を形成していることを考えなくてはなりません。

今回は肩関節の屈曲位にて外力を加えることで後方関節包を刺激し棘下筋が反応していますが、この領域は肩甲上神経が支配しているためです。
つまり、後下方から下方関節包であれば、その領域を支配する腋窩神経が支配していることになるので、小円筋に収縮が起こる可能性があります。
今回の文献ではそこまでの報告はありませんが、その可能性は頭に入れておく必要があるでしょう。

また今回の内容をどう臨床に活かしていくべきかも考えなくてはなりません。
例えば、今回の内容で棘下筋のスパズムについて仮説を立ててみます。
マルアライメントによって骨頭が後方へ変位していることで、後方関節包を常に伸張してしまっている状態であれば、棘下筋には常に活動電位が発生してしまいます。そのことで筋疲労や血液循環に影響を与えてスパズムが起こるのでは?という仮説です。

この場合、治療で棘下筋のリラクゼーションやストレッチを行なってもスパズムの改善には至らないでしょう。
なぜなら、評価として骨頭の位置を確認するべきで、治療としてはマルアライメントの改善になるからです。

スパズム以外にも、筋肉の伸張に関して、できる限り関節包の伸張を調整できるポジショニングでストレッチを行う必要があるのでは?といった仮説があってもいいと思います。
こういったことはあくまで仮説・想像に過ぎないことですが、そういったことを仮定しながら評価や治療に臨むことで、Skill Upにつながっていくのだと思います。

今回紹介した内容は、大部分を割愛し、自分なりの解釈も含まれています。ぜひ全容を読んで、自分なりの解釈をしてみてください。

 

今回使用した書籍

※本記事で使用している画像は、第1版のものです。
そのため画像に記載されているページ数とは異なります。

第2版ではボリュームも増え、カラーになっているので、第2版の購入をお勧めします。

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